凛「ここが聖ヶ山病院ね……」
樹々に揺れる枝に、新芽が萌える春。
わたしは都内随一と言われる名門病院・聖ヶ山病院の前に立っていた。
凛「い、いよいよ今日から研修かあ。緊張するなあ……」
???「あはは、大丈夫だって」
すぐ隣から佐奈の明るい声が聞こえてくる。
佐奈「学校であれだけ勉強してきたんだから、今まで通りやれば良いんだよ」
佐奈「アタシたちだってもう一人前なんだし!」
凛「……うん、そうだよね」
私たちは看護専門学校を卒業し、4月から看護師として働きだす新米ナース。
今日から、この病院で2週間の研修
を行うのだ。
凛「佐奈はすごいね。やる気いっぱいじゃん。わたしなんか上がりっぱなしで……」
佐奈「当たり前よ!」
佐奈「なんてったって、『この病院』だもの!」
そうなのだ。
私たち医療関係者にとって、この聖ヶ山病院は特別な存在だ。
高い技術、最新鋭の設備、行き届いたサービスで、驚異の満足率を誇る……
人気芸能人や政財界の大物まで、数多くの患者を抱えた……
いわば『VIP専用病院』だ。
佐奈「聖ヶ山病院には、毎日超有名アーティストや大企業の幹部たちが大勢来訪するって話よ」
佐奈「もちろん、勤めている医師たちも年収億超えばっかり」
佐奈「アピー ルしまくって、 絶対にダンナをGETするわ!」
佐奈「最低でもカレシくらいはつかまえてやる!」
佐奈は力強く拳を握りながら言った。
凛「あはは、そんなにうまくいかないって」
佐奈「ダメよ、そんな弱気じゃ!」
全力で否定してくる佐奈。真剣すぎてちょっとビビる。
佐奈「アンタ、もうずいぶん長い間カレシがいないじゃない」
佐奈「もちろん研修も大事だけど、恋愛も一緒に頑張ろ! ねっ!」
凛「う、うん」
佐奈のあまりの気迫に思わず返事をしてしまった。
そんなつもりはぜんぜん無かったのだけれど。
もしかしたら……。
もしかしたら、わたしにも……。
思わずそんな甘い期待が胸に広がる。
これから2週間、いったいどんな日々が待っているんだろう。
佐奈「じゃあ、入ろっか!」
凛「うん!」
こうして、わたしたちの研修期間が始まった。
(ホワイトアウト)
(ホワイトイン)
佐奈「あれ、なんだか入り口のあたりが騒がしいわね」
門を過ぎてすぐ、異変に気付く。
病院の入り口にたくさんの人が集まって物々しい雰囲気だ。
佐奈「行ってみよ!」
凛「そうだね」
わたしたちは病院の入り口へと足を進めた。
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